小説「自転しながら公転する」

 何でもない日常生活が、淡々と続いていくような小説であった。
 全体的にみると低いテンションで、明日どうなるかわからないよっていう感じ、私ら完璧でないし、むしろ底辺に近いかも(中卒だし、アルバイトだし)、自分の中で我慢してしまう感じで、妥協と、惰性で生きている感じがした。
 ところどころに、仕事やセクハラのトラブルがあり、友人との本気のやり取りや貫一に強く主張する場面やその決意に至る内省が読んでいてとても読みごたえがあった。

 映画「いと」を見ているような気分になった。

 

・服には、その服を着る必然性が要る。もし、素敵な服が好きでそれが着たいのならば、そういう服を着る必要のある生活をするしかない。
・季節ごとに新しい服を手に入れる経済力、それが入るクローゼット、容量を超えないように管理する能力、時代とずれないように服を入れ替える手間を楽しめる力、疲れているときも時間がないときも、人からどう見えたいか、人にどう見せたいか、強く迷いのない自己プロデュース能力が要る。
・「私、さっき、絵里のことがすっごく羨ましいって思った。私もこういう部屋でこういう生活がしたいって。でもこれは絵里が自分の望みを明確にして努力して手に入れたもので、棚ぼたじゃないんだよね。... 私は何もしないで、いいな~って思っているだけで、本気でそうなりたいってわけじゃないんだと思う」
・「都さんの迷いの根本は、自活できる経済力がないことなんじゃないですか。... その不安を自力で解消できないのであれば、相手を取り換えるべきだと私も思います」
・「恋愛なんて楽なわけないですよ。人間同士の感情のぶつけ合いですからね」
・「今思うと、とにかく私のリーダー的な素質とか覚悟がゼロだったんだと思います。下にいて、上の人にあれこれ文句を言うのは得意でも、自分がいざ人の上に立ってみると、スタッフから言われることが全然さばけなくて。会社の意向と売り場をつなぐのがへたくそで、ああしてこうしてって人に指示するのも苦手で、全部自分で抱え込んで結局パンクしました。シフトを組むのも下手だったし、スタッフ同士の人間関係がこじれているのに話を聞いてあげなかったとか、いろいろですね」
 これほど平静な気分であの時のことを職場の先輩に話せる日がくるとは思わなかった。
・「男はだいたい君の顔より胸を見てる。ね、自覚あるんじゃない?まさかそれをモテてるとか思ってる?」
・「言ったところでどうなった?あんたにできることあった?」「逃げないでよっ」「それが逃げてるって言っての」